秘密保持契約(NDA)とは?

秘密保持契約(NDA)とは、企業同士が業務上やり取りする情報のうち、外部に漏れてはならない情報を第三者に開示しないことを約束する契約です。採用活動においては、企業が重要な情報を外部と安全に共有するために必要な契約です。
採用の現場では、求人票には記載できない人材要件や、組織の課題、評価の考え方、今後の事業戦略など、機密性の高い情報を外部と共有する場面が少なくありません。こうした情報を口頭や資料で伝えるだけでは、万が一漏洩が起きた場合の責任の所在が不明確になります。
秘密保持契約を締結しておくことで、情報の取り扱いルールや責任範囲を明確にでき、企業は安心して採用活動を進めることができるでしょう。
機密保持契約との違い
秘密保持契約と機密保持契約の間に、法律上の明確な違いはありません。どちらも、企業間で共有する情報を第三者に漏らさないことを目的とした契約であり、内容や効力は本質的に同じです。
あえて使い分けを定義するなら、秘密保持契約は日本企業で広く使われている一般的な名称であり、機密保持契約はやや硬い表現として、文書名や業界の慣習によって選ばれることがあります。NDAは「Non Disclosure Agreement」の略称で、IT業界やスタートアップ、国際的な取引の場面でよく用いられます。
名称が異なっていても、秘密情報の定義、目的外使用の禁止、漏洩防止義務など、契約で定める内容は共通しています。
秘密保持契約(NDA)を結ぶ場面
採用活動において秘密保持契約が必要となるのは、企業の重要情報を外部と共有する場面です。採用要件のすり合わせや人材紹介の過程では、事業戦略や非公開ポジションの情報など、機密性の高い情報が自然と含まれることが多くあります。
- 採用代行
- 人材紹介会社
- 新規事業人材や役員候補
- 業務委託人材(フリーランスや副業)
とやりとりする場合、情報の開示範囲が広くなりがちです。そのため、情報提供の前段階で秘密保持契約を結んでおくことが一般的です。一方で、一般的な正社員候補者と個別に秘密保持契約を締結するケースはほとんどありません。
秘密保持契約(NDA)の種類
秘密保持契約には、情報の流れや関係性に応じた複数の形式があります。代表的なのが、一方のみが守秘義務を負う片務型と、双方が秘密情報を守る双務型です。
片務型は、企業が情報を開示し、相手がそれを受け取る構図が明確な場合に用いられます。採用代行やエージェントに対して自社情報を提供する場面では、片務型が選ばれることが多くあります。
双務型は、双方が情報を開示し合うことを前提とした契約で、対等な立場で情報交換を行う場合に適しています。
また、特定のプロジェクトや期間に限定して情報を扱う限定型もあり、新規事業や短期間の採用プロジェクトで活用されることがあります。
秘密保持契約(NDA)を結ばないとどうなる?

秘密保持契約を結ばないまま採用活動を進めると、採用要件や内部情報を外部と共有した時点でコントロールが難しくなり、意図せず第三者へ伝わるリスクがあります。
例えば、事業戦略や組織課題、非公開ポジションの情報が競合に知られれば、採用競争上の不利につながります。また、業務委託候補者や外部パートナーとの間で情報の取り扱いに認識のズレがあると、情報の使用範囲を巡るトラブルに発展することもあります。
さらに問題となるのが、責任の所在が曖昧になる点です。秘密保持契約がなければ、どこまでが秘密情報なのか、漏洩時に誰が責任を負うのかを明確に主張することが難しくなります。その結果、企業としての管理体制が問われ、取引先や候補者からの信頼を損なう可能性も否定できません。
秘密保持契約(NDA)を結ぶタイミング

秘密保持契約を結ぶタイミングは、具体的な採用要件や内部情報を共有する前段階です。
初回の打ち合わせや、候補者との業務内容のすり合わせが進むと、自然と詳細な情報を伝える必要が出てきます。その段階で契約が未締結のままだと、情報提供のたびにリスクを抱えることになるでしょう。
そのため、求人の背景や非公開情報、評価基準など、踏み込んだ情報を渡す直前に秘密保持契約を結んでおくことで、情報管理のルールを明確にしたうえで採用活動を進めることができます。
秘密保持契約(NDA)を結ぶメリット

秘密保持契約を結ぶことで、採用活動における情報共有の質と安全性が大きく向上します。ここでは、秘密保持契約を結ぶ具体的なメリットを解説します。
機密情報を安全に共有でき、選考の精度が高まる
秘密保持契約があることで、事業戦略や技術仕様、新規プロジェクトの背景など、通常の面接では開示しにくい情報も共有しやすくなります。企業側は、実際の業務内容や求める役割を具体的に伝えられるため、候補者のスキルや適性をより正確に判断できます。
一方、候補者にとっても、表面的な求人情報だけでなく、実態に近い情報を理解したうえで意思決定ができるようになります。その結果、採用後のギャップが減り、ミスマッチの防止につながるでしょう。
万が一の際は損害賠償請求が可能になる
秘密保持契約を締結すると、候補者には法的な守秘義務が発生します。これにより、情報が外部に漏れにくくなるだけでなく、万が一漏洩が起きた場合には、損害賠償請求や差止めといった法的手段を取ることが可能になります。
法的な守秘義務が明文化されていることで、候補者側の情報管理に対する意識も高まり、結果として情報漏洩そのものを未然に防ぐ抑止力となるでしょう。
候補者との信頼関係を構築し、正確な情報交換ができる
秘密保持契約を結ぶことは、企業が情報保護を重視している姿勢を示す行為でもあります。その姿勢が伝わることで、候補者も自身の実績や業務上の知見を安心して開示しやすくなります。
特に、業務委託候補者やハイレイヤー人材のように、自身のノウハウや過去のプロジェクト情報を慎重に扱いたい層にとっては、秘密保持契約の有無が企業への信頼判断に直結します。
結果として、より正確で踏み込んだ情報交換が可能になるでしょう。
新規事業や極秘プロジェクトの競争優位性を守れる
秘密保持契約を結ぶもう1つのメリットは、新規事業や極秘プロジェクトの競争優位性を維持したまま採用活動を進められる点にあります。
事業構想やプロダクトの方向性といった情報は、それ自体が競争力であり、外部に漏れることで優位性が失われる恐れがあります。特にスタートアップや開発ポジションでは、採用活動そのものが競争環境の一部であるため、秘密保持契約は事業成長を支える重要な仕組みといえます。
秘密保持契約(NDA)に記載すべき項目

秘密保持契約は、ひな形をそのまま使えば安全というものではありません。ここでは、人事・採用担当者が最低限押さえておくべき主要項目と、その実務上の注意点を整理します。
1. 秘密情報の定義
秘密情報の定義は、秘密保持契約の中でも最も重要な項目です。どの情報を秘密として扱うのかを明確にしなければ、後からトラブルが起きた際に保護対象と認められない可能性があります。
また、資料として渡した情報だけでなく、面談や打ち合わせで口頭で伝えた内容を含めるかどうかも明示する必要があります。
代表例:採用要件や評価基準、新規事業の構想、技術資料、仕様書など
2. 秘密情報の範囲から除外される情報
全ての情報を無制限に秘密扱いすると、受領者との認識のズレや不信感につながります。そのため、秘密情報に該当しない情報をあらかじめ定義しておくことが重要です。
一般的には、すでに公知となっている情報、受領者が独自に正当に取得した情報、情報開示前から保有していた情報などが除外対象になります。この項目を明記しておくことで、後から「それは最初から知っていた情報だ」といった主張が出た場合の判断基準になります。
具体的な記載例としては「公知の事実、第三者から適法に取得した情報、開示前から保有していた情報は秘密情報に含まれない」といった形が一般的です。
3. 守秘義務の内容
守秘義務の内容では、受領者が何をしてはいけないのかを具体的に定める必要があります。採用の文脈では、第三者への開示や漏洩の禁止、採用検討以外の目的での使用禁止、資料の複製や持ち出しの禁止などが代表的です。
注意点として、どこまでが禁止なのかを曖昧にしないことが挙げられます。例えば「本契約の目的以外で秘密情報を使用してはならない」「書面・データを問わず第三者に開示してはならない」といった表現で具体化します。
4. 開示目的
開示目的は、秘密情報を渡す理由を明確にする項目です。開示目的が定義されていないと、情報の使い道を巡ってトラブルが起きやすくなります。目的を明示することで、それ以外の用途で情報を利用した場合は契約違反となることが明確になります。
採用活動の場合、特定ポジションへの応募検討、スキル評価、業務委託契約の可否判断などが該当します。記載例としては「本契約は、特定の採用ポジションに関する検討および評価を目的として秘密情報を開示するものである」といった形が分かりやすいです。
5. 情報の管理方法
情報の管理方法では、秘密情報をどのように扱うべきかを定めます。管理ルールを明文化することで、受領者の行動基準が明確になるでしょう。
例えば、第三者に見せないこと、複製を禁止すること、クラウドサービスへの保存を制限することなどが挙げられます。家族や友人も第三者に含まれる点は、特に注意が必要です。
実務では「秘密情報は厳重に管理し、第三者に開示または漏洩してはならない」といった包括的な表現に加え、必要に応じて具体的な管理方法を補足しましょう。
6. 有効期間
有効期間は、守秘義務がいつまで続くのかを定める項目です。期間を定めないと、守秘義務が永遠に続くと誤解されることがあります。
採用活動では、契約終了後1〜3年程度が一般的です。情報の性質や重要度に応じて期間を調整することが重要です。
記載例としては「本契約終了後も、○年間は本契約に基づく守秘義務を負う」といった形が多く用いられます。
7. 情報の返還・破棄義務
情報の返還・破棄義務は、採用選考や協議が終了した後、受領者が秘密情報を保持し続けないようにするための項目です。
紙資料は返却、データやPDFは削除といったように、情報の形態ごとに対応を定めておくと実務上の混乱を防げます。「選考終了後、秘密情報を含む資料およびデータは、すべて返却または破棄するものとする」といった記載が一般的です。
8. 損害賠償・違約金
損害賠償・違約金の項目は、契約違反が起きた場合の責任を明確にするためのものです。実損賠償を基本としつつ、差止め請求が可能であることを記載するケースもあります。
注意点として、過度な違約金設定は無効となる可能性があるため、実務では抑止力を意識したバランスが重要です。「本契約に違反し損害が生じた場合、当該損害を賠償する責任を負う」といった表現がよく使われます。
9. 契約当事者・署名欄
契約当事者を明確にすることで、秘密保持契約に法的な拘束力が生じます。企業名、所在地、代表者名、候補者の氏名や住所などを正確に記載します。
法人なのか個人なのかを曖昧にしないことが重要で、業務委託候補者の場合は個人名義での締結になるケースが一般的です。署名または記名押印欄を設けることで、合意の事実が明確になります。
10. 準拠法・裁判管轄
準拠法・裁判管轄は、トラブルが発生した場合にどの国の法律を適用し、どの裁判所で争うのかを定める項目です。
国内採用であれば、日本法を準拠法とし、企業所在地を管轄する裁判所を指定するのが一般的です。
「本契約は日本法を準拠法とし、本契約に関する紛争は○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」といった記載がよく用いられます。
秘密保持契約(NDA)のよくある質問

秘密保持契約については、実務を進める中で細かな疑問が生じやすいポイントがいくつかあります。ここでは、採用担当者からよく聞かれる質問と、その考え方を整理します。
秘密保持契約に収入印紙は必要ですか?
原則として、秘密保持契約書そのものは印紙税の課税対象ではないため、収入印紙は不要です。秘密保持契約は金銭の支払い義務を直接定める契約ではなく、情報の取り扱いに関する約束を目的とするためです。
ただし、契約書の中に業務委託契約や請負契約の内容が含まれ、報酬や支払い義務が明記されている場合は、課税文書とみなされ、収入印紙が必要になる可能性があります。秘密保持単独の契約か、他の契約と一体になっていないかを確認することが重要です。
契約書には割印が必要ですか?
紙の契約書で複数ページにわたる場合、割印や契印を押すのが一般的です。これは、全てのページが同一の契約書であることを示すための実務上の慣行です。
法律上、秘密保持契約書に割印がなければ無効になるわけではありませんが、後からページの差し替えを疑われるリスクを避ける意味でも、形式として押しておくことが多くあります。
電子契約でも秘密保持契約を締結できますか?
電子契約サービスを利用して、電子署名付きで秘密保持契約を締結することは可能です。多くのケースで法的にも有効とされており、実務上も広く利用されています。スピードや管理のしやすさを重視する場合、電子契約は有効な選択肢といえます。
候補者本人と秘密保持契約を結ぶ必要はありますか?
候補者本人と必ず秘密保持契約を結ぶ必要があるわけではありません。一般的な採用選考では、そこまで機密性の高い情報を共有しないため、不要なケースが多いのが実情です。
一方で、役員候補や新規事業ポジション、業務委託候補者など、事業戦略や内部情報を詳細に共有する場合は、秘密保持契約の締結を検討すべきです。共有する情報の深さに応じて判断することが重要です。
秘密保持契約は採用エージェントや外部パートナーとも結ぶべきですか?
採用エージェントやRPO、外部パートナーと情報共有が発生する場合は、基本的に秘密保持契約を結ぶべきです。特に、採用要件の背景や評価基準、社内状況などを伝える場合は、守秘義務を文書で明確にしておく必要があります。
口頭の約束だけでは、情報漏洩時の対応が難しくなるため、契約として整理しておくことが実務上の安心につながります。
自社がプライバシーマーク(Pマーク)を取得している場合の注意点はありますか?
プライバシーマークを取得している企業では、個人情報保護に関する社内規定がすでに整備されています。そのため、秘密保持契約で扱う情報に個人情報が含まれるかどうかを整理し、社内ルールと齟齬がないかを確認する必要があります。
特に、候補者情報や評価情報など個人情報に該当する内容については、秘密保持契約の内容と社内の取り扱い基準を統一し、明示的な管理ルールを設けることが求められます。
選考終了後、秘密保持契約はどう処理すべきですか?
選考や協議が終了した後は、候補者や外部パートナーに渡した資料を返却または破棄してもらうのが基本です。あわせて、企業側でも保管期間を定め、必要以上に情報を保持しないよう管理します。
実務上は、秘密保持契約の中に返却や削除の義務を明記しておくことで、選考終了後の対応をスムーズに進めることができます。契約締結時点で、その後の処理まで想定しておくことが重要です。
まとめ
秘密保持契約(NDA)は、採用活動において企業の重要情報を守り、適切な意思決定を行うための基盤となる契約です。採用要件や評価基準、新規事業の構想など、外部に漏れると競争力や信頼性を損なう情報を安全に共有するためには、秘密保持契約を前提とした情報開示が欠かせません。
一方で、秘密保持契約はひな形を使うだけでは不十分です。秘密情報の定義や守秘義務の内容、有効期間、返還・破棄義務など、採用実務に即した項目が適切に記載されているかを確認することが重要です。
採用担当者は、どのタイミングで、誰と、どこまで情報を共有するのかを見極めたうえで、秘密保持契約を戦略的に活用することで、事業と採用の両立を実現できます。