AI開発の業務委託で使われる準委任と請負の違い

まずは、AI開発の業務委託で使われる準委任と請負の違いを解説します。どちらを選ぶかによって、成果が出なかったときに誰がリスクを負うかが変わります。
| 項目 | 準委任(履行割合型) | 準委任(成果完成型) | 請負 |
| 報酬の対象 | 業務の遂行 | 業務の遂行(成果の引き渡し時に支払う) | 仕事の完成 |
| 完成義務・契約不適合責任 | 完成義務や契約不適合責任の規定はないが、善管注意義務は負う | 完成義務や契約不適合責任の規定はないが、善管注意義務は負う | 完成義務と契約不適合責任を負う |
| 途中終了時の報酬 | 業務を行った割合に応じて請求できる | 発注側が受ける利益の割合に応じて請求できる | 発注側が受ける利益の割合に応じて請求できる |
| 再委託 | 発注側の許可などがなければ原則不可 | 発注側の許可などがなければ原則不可 | 原則可能(契約で制限できる) |
| 報酬の決め方の例 | 月額・時間単価 | 成果物ごとの金額 | 一括の固定額 |
| 向いている工程 | 事前評価・PoC(試験検証)・運用など、結果を予測しにくい工程 | 検証レポートなどを段階ごとに受け取りたい工程 | 要件が固まった実装工程 |
準委任契約:業務の遂行に対して報酬を払う
準委任契約は、仕事の完成ではなく、業務の遂行を委託する契約です。受託者に完成の義務はありませんが、専門家として通常求められる注意を払って業務を進める「善管注意義務」を負います。
報酬形態は、作業量に応じて支払う「履行割合型」と、成果の引き渡しと同時に支払う「成果完成型」の2つです。
成果完成型は、準委任契約のまま成果物と報酬を結びつけられる形です。AI開発では、検証レポートなどを段階ごとに受け取りたい場合に選べます。ただし、契約の目的はあくまで業務の遂行であり、完成を義務づける請負とは異なります。
請負契約:仕事の完成に対して報酬を払う
請負契約は、仕事の完成を約束し、その結果に対して報酬を支払う契約です。受託者は完成の義務を負い、成果物が契約内容に合わなければ、修正などに対応する「契約不適合責任」を負います。
発注側の利点は、契約で定めた仕事の完成を求められることです。一方、受託側は完成できないリスクを契約条件や価格に反映します。そのため、仕様が固まっていない段階では見積もりが難しく、契約の合意にも至りにくくなります。
AI開発は準委任契約のほうが馴染みやすい

経済産業省のガイドラインを踏まえると、AI開発には準委任契約が馴染みやすいといえます。主な理由は2つです。
▼参考:AI・データの利用に関する契約ガイドライン 1.1版|経済産業省
契約時点では学習済みモデルの性能がわからない
AIの性能は、データを使って学習を進める中で決まるため、契約時点で到達する精度を約束するのは困難です。学習に使っていない未知のデータに対して、どう動くかを事前に保証することも難しくなります。
ガイドラインでも、契約時点では学習後のモデルの内容や性能がわからず、未知の入力に対する性能も保証しにくいことを、AI開発の特性として挙げています。
この段階で完成を約束する請負契約を選ぶと、受託側はリスクを見込んで条件を厳しくするため、費用が高くなったり、合意に至りにくくなったりします。
性能が発注側のデータの質に左右される
AIの精度は、学習データの量と質に大きく左右されます。データが少ない場合や、偏り・誤りがある場合は、受託側が工夫しても目標の精度に届かないことがあります。
学習データは発注側が自社の業務データから用意することが多く、性能が出ない原因が受託側の作業にあるとは限りません。このように責任を切り分けにくい点も、完成の責任を負う請負契約に馴染みにくい理由です。
準委任契約であれば、双方で役割を分担し、データの改善も含めて検証を進められます。
【フェーズ別】AI開発の契約形態の選び方

経済産業省のガイドラインでは、AI開発を段階に分け、それぞれで契約を結ぶ「探索的段階型」の進め方を示しています。段階によって、適した契約形態や担当する人材は異なります。ここでは、開発段階ごとの契約形態の選び方を紹介します。
▼参考:AI・データの利用に関する契約ガイドライン 1.1版|経済産業省
アセスメント
アセスメント(事前調査)は、少量のデータを使い、AIで解決できる課題か、学習に使えるデータがあるかを確かめる段階です。成果物は調査レポートなどで、AIモデルの完成を目指す段階ではないため、作業期間に応じて報酬を支払う準委任契約が適しています。
ガイドラインでは、この段階で秘密保持契約を結ぶことを想定しています。社内データを渡す前に、利用範囲と管理方法を決めておきましょう。業務課題の整理とデータの見極めが中心となるため、AIコンサルタントやデータサイエンティストが担うことが多い段階です。
PoC
PoC(概念実証)は、自社データを使ってAIを学習させ、精度や費用の見込みを検証する段階です。ガイドラインのモデル契約(導入検証契約書)も、準委任型を想定しています。
成果を予測しにくいため、作業量に応じて報酬を支払う準委任契約(履行割合型)が基本です。検証レポートや試作モデルを段階ごとに受け取りたい場合は、成果完成型も選べます。
目標に届かなかった場合の終了条件は、事前に決めておきましょう。PoCは、モデルの構築・検証を担うMLエンジニアやデータサイエンティストが中心となって進めます。
本開発
本開発は、PoCで有効性を確認し、実運用できるモデルやアプリをつくる段階です。この段階でも学習後のモデルの性能は事前に保証できないため、ガイドラインのモデル契約(ソフトウェア開発契約書)も、準委任契約(履行割合型・成果完成型)を想定しています。
一方、画面や機能、既存システムとの連携など、要件と検収条件を書面で確定できる部分は、請負契約も選べます。生成AIのAPIを組み込むアプリなど、自社で学習させない開発は性能の不確実性が比較的小さく、請負を選びやすいと考えられます。
開発はLLMアプリ開発エンジニアやMLエンジニアが担い、仕様を固める役割はAIプロダクトマネージャーが担うことが多い段階です。
運用・追加学習
AIは、運用開始後に入力データの傾向が変わると、精度が徐々に下がることがあります。そのため、運用段階では精度の監視や、新しいデータを使った再学習が必要です。
継続して取り組む業務のため、準委任契約が適しています。報酬は月額や時間単価で決めるのが一般的です。運用と改善の仕組みづくりは、MLOpsエンジニアが担うことが多い領域です。
契約形態に迷ったときの判断軸
契約形態に迷ったときは、次の3つを目安に判断しましょう。
- 成果物と検収条件を書面で定義できる:請負
- 自社で学習させる開発で精度がデータに左右される、または仕様変更が見込まれる:準委任(履行割合型)
- 結果は予測しにくいが、成果物を段階ごとに受け取りたい:準委任(成果完成型)
同じ開発でも、部分ごとに適した契約は異なります。モデルの学習は準委任、画面の開発は請負など、範囲を分けて契約する方法もあります。
AI開発の契約形態で起こりやすい3つのパターン

業務委託人材にAI開発を任せる際は、契約形態の選び方によって結果が変わることがあります。ここでは、よく見られる3つのパターンを紹介します。
PoCを一括請負で発注して精度の基準で揉める
検証段階から業務委託のMLエンジニアに請負で発注し、「目標精度を満たすモデルの納品」を条件に契約するケースです。発注側には、決まった費用で確実に成果を得たいという意図があります。
しかし、目標に届かなければ、発注側は「完成していない」、受託側は「データに問題がある」と主張し、報酬の支払いや追加作業をめぐって対立することがあります。検証段階では結果を予測しにくいため、準委任契約で始めるほうがトラブルを避けやすくなります。
準委任のまま期間が延びて出口が見えなくなる
成果物や中止条件を決めず、月額の準委任契約で検証を始めるケースです。毎月の報告はあっても、検証を終える基準が決まっていません。社内に判断する人がいないと方向修正が遅れ、検証が長引いて費用だけが積み上がることがあります。
準委任でも、何を受け取り、いつ判断するかを契約前に決めておく必要があります。
検証は準委任、本開発は請負に切り替えて進める
うまく進むパターンは、PoCを準委任で進め、結果をもとに仕様書と検収条件をまとめたうえで、要件が固まった部分の開発を請負に切り替える方法です。発注側は開発費用と範囲を確定でき、社内の承認も得やすくなります。
切り替える際は、前の契約で決めたデータの利用条件や秘密保持の取り決めを、新しい契約に引き継ぎましょう。
AI開発の準委任契約を管理するために決めておくこと

準委任契約には完成の義務がないため、進捗の目安や継続を判断する時期を決めずに始めると、開発が長引きやすくなります。ここでは、契約前に決めておきたい4つの項目を紹介します。
マイルストーンごとの成果物と報告の範囲
まず、進捗の区切りごとに受け取る中間成果物を契約で定めます。検証レポートや評価結果、試作モデルなどが該当します。
あわせて、中間報告の頻度と、精度を測る評価指標も決めましょう。評価指標は、正解率や再現率などから、業務の目的に合ったものを選びます。
準委任契約でも、受け取る成果物を明確にすれば、進捗を客観的に確認できます。検証が想定通りに進んでいるか、社内で説明しやすくなる点も利点です。
継続判断のゲートと契約期間の区切り
次に、開発段階ごとに、次へ進むための基準を設けます。例えば、「PoCで評価指標が目標値に届いたら本開発に進む」といった基準です。
契約期間は数か月単位で区切り、更新時に基準と照らして継続を判断します。長期契約を一度に結ぶより、方向修正や中止を判断しやすくなります。目標に届かなかった場合の終了条件と、終了時の報酬の扱いも事前に合意し、トラブルを防ぎましょう。
学習済みモデルとデータの権利・利用範囲
AI開発では、学習済みモデルや発注側が提供するデータの権利が誰に帰属するかを、契約で定めます。
経済産業省のガイドラインでは、権利の帰属に加え、利用条件を具体的に決めることも重視しています。自社で使える用途や、受託側による他案件への転用の可否などを条文にしましょう。
契約終了時に、提供データを返却するか削除するかも決めておきます。権利や利用条件が曖昧だと、自社でモデルを改良したり、別の業務に活用したりする際に支障が出ます。
▼参考:AI・データの利用に関する契約ガイドライン 1.1版|経済産業省
社内で判断を返す担当者
準委任契約でAI開発を進めるには、発注側が優先順位や仕様を判断する体制が必要です。受託側は専門家として作業を進めますが、何を優先し、どの精度で十分とするかは、発注側が決めなければなりません。
社内に判断する担当者がいないと作業が止まり、期間や費用が膨らむ恐れがあります。適任者がいない場合は、AIプロダクトマネージャーやAIコンサルタントに業務委託で要件整理を任せ、社内の担当者が最終判断を担う方法もあります。
AI開発を業務委託人材に依頼する際の注意点

個人の業務委託人材と準委任契約を結ぶと、開発段階に応じて稼働量や期間を調整しやすくなります。ただし、個人への委託には、契約形態を問わず守るべきルールがあります。ここでは、企業が押さえておきたい3つの注意点を紹介します。
取引条件を明示する
2024年11月施行のフリーランス新法では、個人に業務を委託する際に、業務内容・報酬額・支払い期日などの取引条件を明示する必要があります。報酬は、成果物や役務を受け取った日から原則60日以内に支払わなければなりません。
6か月以上の委託では、途中解除の30日前予告なども必要です。準委任で契約が長期になりやすいAI開発では、特に注意しましょう。
企業の規模などによっては、2026年1月施行の取適法も適用されます。自社にどの法律が適用されるかは、法務部門にしっかり確認しておきましょう。
細かく指示しすぎない
作業時間や手順を細かく指定して拘束すると、労働者とみなされる恐れがあります。準委任契約・請負契約のどちらでも、労働者に当たるかどうかは、契約の名称ではなく、実際の働き方で判断されます。
依頼する際は、業務の範囲と求める成果を伝え、進め方は受託者に任せましょう。進捗は定例の報告で確認する方法が適しています。
秘密保持とアクセス管理を整える
AIの学習データには、顧客情報や社内の機密情報が含まれることがあります。個人に委託する場合も、開発会社と同じ水準で情報を管理する必要があります。
秘密保持契約を結び、渡すデータの範囲やアクセス権限、契約終了時の削除方法を事前に決めましょう。個人データを渡す場合は、個人情報保護法に基づく委託先の監督も必要です。
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AI開発では、開発段階ごとに必要な職種が変わるため、適した人材を必要な時期に確保することが重要です。
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| AI開発の業務委託でつまずきやすい点 | SOKUDANの対応 |
| 開発段階ごとに必要な職種が変わる | LLMアプリ開発エンジニア、MLエンジニア、MLOpsエンジニア、AIコンサルタント、AIプロダクトマネージャー、データサイエンティストなどが登録。実務経験5年以上が約6割 |
| 社内に判断する担当者がいない | AIプロダクトマネージャーやAIコンサルタントも業務委託で探せる |
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| 開発段階に合わせて稼働量を調整したい | AIエンジニア・AIコンサルタントともに週1〜2日から依頼でき、2職種への同時依頼も可能 |
| 候補者の見極めが難しい | AIと人による二重スクリーニングを経て、比較できる候補者を約5名提案 |
| 複数の職種でチームを組みたい | 複数職種による専属AIプロチームの編成にも対応 |
| 個人への委託で契約や条件明示が不安 | 基本的に3者間契約とし、契約書の整備や取引条件の明示をサポート |
| 費用が不安 | 初期費用0円から利用でき、正社員化も可能 |
SOKUDANでは、AI開発の進め方や必要な職種が固まっていない段階でも相談できます。
AI開発の契約形態に関するよくある質問

最後に、AI開発の契約形態について、よくある質問にお答えします。
AI開発の準委任契約では、成果が出なくても報酬を払う?
履行割合型では、受託側が適切に作業を行っていれば、成果が出なくても報酬を支払う必要があります。
ただし、受託側には専門家としての善管注意義務があり、無条件に報酬が発生するわけではありません。経済産業省の資料も、完成義務がなくても善管注意義務は負うと指摘しています。
そのため、契約では、進捗の区切りごとに受け取る中間成果物と、開発段階ごとに継続を判断する基準を決めておきましょう。
▼参考:AIの利用・開発に関する契約チェックリスト|経済産業省
AI開発の精度保証を契約に入れられる?
AIの学習後の性能を契約で保証するのは、一般的に困難です。経済産業省のガイドラインも、学習済みモデルの完成や、未知のデータに対する性能の保証は難しいとしています。
代わりに、評価用データと評価条件を固定し、目標とする指標を合意する方法があります。本開発に進む前に、PoCで精度の見込みを確かめておくことも有効です。
AI開発を1人の業務委託人材に任せられる?
開発段階ごとに必要なスキルが異なるため、1人ですべてを担えるとは限りません。例えば、PoCを担うMLエンジニアと、運用の仕組みをつくるMLOpsエンジニアでは、得意分野が異なります。
検証と運用で担当者を替える、複数の職種でチームを組むといった方法も検討しましょう。
契約書の名称で準委任か請負かが決まる?
契約書の名称だけでは決まりません。「業務委託契約書」という名称でも、完成義務や報酬の条件など、条文の内容で判断されます。業務の目的や成果物、報酬が発生する条件を契約書に明記しておきましょう。
まとめ
AI開発は、契約時点で完成後の性能を約束しにくいため、準委任契約が基本です。経済産業省のガイドラインも、PoC・開発段階のモデル契約を準委任型としています。事前調査やPoC、運用は準委任が適していますが、要件が固まった実装部分は請負も選べます。
契約前には、進捗の区切りごとに受け取る成果物、継続を判断する基準、権利や利用条件、社内で判断する担当者を決めておきましょう。
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